トルーマンの主目的は日本よりソ連だ
2025-07-09


原爆投下の目的についてもトランプの誤解は止まらない。

映画オッペンハイマーを見ればよくわかるが、オッペンハイマーの開発したプルトニウム原爆は、米ソ開戦に備えて作ったものである。これは長崎に落とされた。

広島に落とした濃縮ウラン原爆は濃縮工程に時間と手間がかかるので大量生産は不可能である。一方、プルトニウム原爆は化学分離で得られるので、比較的大量に製造できる。

オッペンハイマーが米政府から指示されたのはこのプルトニウム原爆の開発だった。これがないと米ソ冷戦での優位性は保てない。しかし、プルトニウム原爆には物理的に爆発させるのが難しい理由があった。それは爆発に必要な超臨界状態になる前に、プルトニウム同位体の自然崩壊で中性子が発生するため、爆発以前にその中性子の核分裂連鎖反応で熱をある程度発生してしまう。熱膨張すると、原子核の間隔が広がり、その微小な隙間から中性子が体系外に漏洩するので、自動的に未臨界になってしまう。これは現在の原子炉が核爆発しない原理のひとつでもある。

そこで、オッペンハイマーとエドワード・テラーは大量のダイナマイトをプルトニウムの周辺に配置して、同時に圧縮することで、このプルトニウムの自然崩壊による中性子発生が発生するよりも早く、超臨界状態に持っていく技術を開発した。これを爆縮技術と称している。

しかし、この自然崩壊は確率的に生じるため、どこまで早く爆縮すれば超臨界達成が中性子発生よりも早くできるかは、実験しないと確認できない。また、その爆縮速度と自然崩壊の速度の相対関係で、核分裂できるプルトニウム量、即ち、全核爆発エネルギーが決まる。

そのため、テラーを中心に非常に厳密な物理:機械設計を行い、開発した爆縮装置がうまく作動するか1945年7月にネバダ砂漠でプルトニウム原爆の爆発実験を行った。これはトリニティ実験と呼ばれている。だが、困ったことにその核爆発エネルギーの予測精度が不十分で、砂漠周辺に配置した米陸軍兵士には全く影響がなかったのである。(このあたりは映画オッペンハイマーに比較的詳細に描かれており、アインシュタインやロスアラモスの研究者間で予測爆発エネルギーが一桁以上異なっている。)

そこで、米ソ核戦争時の米軍兵士の被ばく影響を確認するには、トリニティをほぼ再現したプルトニウム原爆を作り、これを再実験する必要が出てきた。これが長崎原爆として使われたファットマンと呼ばれる原爆である。爆縮装置が径1メートル以上あり、B-29に何とか収まるサイズになっているのでファットマンなのである。

濃縮ウラン原爆はウランの高濃縮ができれば、プルトニウムのような爆縮問題はないので本体は小さく、リトルボーイと呼ばれたが、ほぼ確実に爆発することは分かっていた。

まず、これを広島に落とし、日本の敗戦を決定づけたが、トルーマンの主目的は対ソ連優位性の確保である。濃縮ウラン原爆を作るには時間がないし、大量生産も不可能である。広大なロシアをつぶすには確実な爆発力を持つプルトニウム原爆が必要だった。広島から日を置かずに、プルトニウム原爆を長崎に落とす理由はここにあったのである。

その結果、日本の無条件降伏を待たずに広島の三日後には長崎に落としたのである。これは人体実験と言えるだろう。


続きを読む

[私家版歴史]
[私家版物理]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット