発がんリスクに関する長崎原爆と太陽フレアの微妙な関連
2025-07-09


長崎被ばく者の発がんリスクは広島被爆者の発がんリスクに比べ同一線量で2倍程度大きいことは1月27日の記事で書いたが、その理由は線量評価だけだろうか。

細胞内の分子は高速で移動している。二河成男「生命分子と細胞の科学」(放送大学出版会)p.173によればグルコースのような小さな分子では1ミリ秒で1μメートルは移動する。

一方、放射線を受けたDNAはP53などの細胞のがん化を防ぐ腫瘍抑制タンパク質により修復される。この修復速度が被ばくした線量率よりも十分早ければがん化は防ぐことができる。

従って、線量が同一でも線量率次第でがん化が生じたり、生じなかったりすることになる。

残念ながら、現在の国際放射線委員会(ICRP)或いは我が国をはじめ多くの規制基準には殆ど線量率に関わる基準はない。低線量なら許容値を2倍にするといった程度である。

しかし、太陽フレアという瞬時被ばく現象がある。これが、米国航空業界のCAのがん発症率を一般人女性の3倍程度に上げているという説がある。(本ブログ2月22日記事参照)

地上に暮らす一般人は太陽フレアの高エネルギーX線を殆ど受けないが、1万メートル以上の航空機に滞在するCAは太陽フレア被ばくを受ける機会が一般人の3倍以上はあるということで説明がつく現象である。

今年は太陽フレアの頻発年であるので、海外旅行ではそのリスクは増加することになる。太陽フレアX線は瞬間的な被ばくなので、時間線量は十分小さいが、線量率は大きい。しかし、残念ながらその正確な測定値は公表されてはいないようだ。

これらの事象を総合して考察すると、長崎の原爆では広島よりも時間線量率が2倍程度大きかった可能性がある。即ち、爆発時間が半分程度に短かったのである。これならば、TNT換算値に線量は比例しても線量率は倍になるので、がん発症率は高くなり、長崎被ばく者のがん発症リスクが、広島被爆者よりも大きい理由付けができる。

広島の放射線影響研究所の報告には、両原爆共に爆発時間は1μ秒以下と書かれているだけで、正確な値は公開されていない。これが発がんリスクに大きく影響することは明らかになってきているのにその最重要データすら軍事機密の闇の中である。

これは、原爆では爆縮した後に中性子発生装置が起動するのであるが
そのメカニズムが微妙すぎるので秘匿されているのだろうとは想像できる。長崎原爆は爆縮機構がついていたが、確実に爆発させるために中性子発生装置の強度が広島よりも強く、瞬間的に爆発した可能性もある。しかし、広島、長崎の時間線量率の区別ができなかった結果、ICRPの基準では線量率が無視されて総被ばく線量だげが発がんリスクのパラメータになってしまった。そして、太陽フレアのような瞬時被ばくだが、線量は小さく測定に掛からないような事象での発がんは見逃されるという状況が現存している。そして、福島のような低線量率長時間被ばくだけが問題にされているのである。

原爆の被ばくも高空での太陽フレア被ばくもX線撮影被ばくも人類が20世紀まで経験もしたことのない高線量率被ばくである。そのような人類が免疫機構を得ていない被ばく形態ではがんリスクも高まることは容易に想像できる。

しかし、インドのケララ地方のように、低線量率だが年間被ばく量が高い地域での発がん率が本当に低いのかといった議論だけが注目されている。

もしかするとX線検査のような高線量率短時間被ばくのほうがCTのような低線量率長時間被ばくよりも発がんリスクは高いのかもしれないが、医療被ばくの評価も結局はICRP基準に基づいており、時間積分線量のみで発がんリスクが議論されているのが悲しい現状である。

これらの議論をはっきり決着させるためにも、トランプは米軍に命令して、TNT換算値だけでなく、両原爆の爆発時間、即ち時間線量率の正確な値も日本側に知らせるべきである。


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