2025-07-05
ダライ・ラマ自伝という本がある。(文春文庫、ダライ・ラマ著、山際素男訳) 衝撃的な本である。
これは輪廻回生の実態を生々しく描いた自伝である。最も印象的だったのは子供のダライ・ラマ14世がチベット仏教の修業させられ、長時間の儀式の中でトイレを我慢するのが辛かったという件である。
幼児のダライ・ラマがチベット仏教の高僧たちの国中の捜索で発見され、家族とともに首都ラサのポタラ宮に運ばれ、それまでの農村の生活から一変する修行の日々を送り、世界中を旅するという波乱の人生が描かれている。
驚くのはその記憶力の良さである。比較はできないが昭和天皇が自伝を著したとして、あの戦争の実態をどこまで描けただろうか。
チベット動乱ののち、ダライ・ラマはインドに亡命するという苦渋の判断をすることになるが、あの共産軍がラサに侵攻し市民が抵抗するもとでの脱出行は、最近のロシアや米国の厳しい国際戦略の歴史をどう受け入れるのかの参考にもなる。
以前はダライ・ラマ14世はこの輪廻回生によるダライ・ラマ制度を自分の代で終わらせるという主旨の発言をしていたはずだ。チベット人民の安泰を考えれば、それも仕方がないと思ったことがある。
それが一転、北京政府の反発を受けることを覚悟のうえで、ダライ・ラマ制の継続を宣言した。その決断は最近の米ロ中の政策の問題点を認識したうえで行われたのだろう。
それがどんな歴史認識のもとに行われたのかあの自伝の続編を読みたいものである。
自分のトイレの苦痛を世界中に公表できるような人(?)は、現在の米ロ中の指導者のような嘘は絶対つかないだろうから、真の歴史的文書となると期待している。
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