2024-12-29
米国映画オッペンハイマーがやっとWOWOWで放映されたので、少々前半は退屈だったが、3時間のテレビ鑑賞をしてみた。
映画なのでオッペンハイマーのプライベートや感情描写の良し悪しにはコメントはしないが、当時の原爆開発の基本的事項で疑問に感じたことを列挙してみる。
(1)広島型原爆と長崎型原爆を混同している。
ロスアラモスでの1945年7月15日のトリニティ実験は長崎型のプルトニウム原爆実験だったにもかかわらず、日本への投下は8月6日に迫っているという設定になっている。広島型は濃縮ウランなので、失敗することは当時であっても考えられなかった。プルトニウム型は、プルトニウムー240からの自発核分裂中性子により超臨界以前に核分裂連鎖反応を開始して不完全爆発することが予想されたので、トリニティ実験で事前確認したのである。
従って、日本にポツダム宣言受諾をさせるために、まず、濃縮ウラン型により広島で確実に原爆の威力を見せつけたうえ、僅か三日後に、不完全爆発の可能性もあったプルトニウム型原爆を長崎に落としたのである。
映画でもトリニティ実験でのプルトニウム原爆の出力予測は、TNT換算で3キロトンから20キロトンと不確かさが大きかったため、ネバダの実験場での兵士配置も9キロも離れたところとなっていた。
なぜこんなに出力予測が難しいかと言えば、超臨界持続時間の評価が困難だからである。爆縮して中性子を入力した後、爆発するのだがその結果、爆発してプルトニウムが熱膨張するため、すぐに未臨界になる。その時間は1マイクロ秒以下である。この短時間挙動が核的臨界性変化と熱的温度変化、結晶構造変化が互いにフィードバック効果により複雑に絡み合うので、解析的な評価がほとんど不可能なのである。この結果、ダイナマイトなどほぼ100%燃焼する従来型爆弾と異なり、原爆では装荷したプルトニウムやウランの数%から10%程度しか核分裂しない。中性子の挿入タイミングが超臨界状態から多少ずれてしまえば不完全爆発となり、通常爆弾よりも出力は小さくなる。
そのため、映画の中では、トリニティ実験が成功したときに、軍関係者、研究技術者など関係者全員がネバダ砂漠の中で大喜びする映像が映されたのである。
現在の各種報告書、ネット情報では、トリニティも長崎原爆もともに20キロトンということになっているが、これには大きな疑問がある。例えば広島・長崎の原爆被ばく生存者の被ばく線量とがん発症率の関係を評価すると被ばく線量は原爆出力と比例しないという不整合なデータが出ている。(本ブログ2024年8月8日記事等参照)
映画でも言及していたが、プルトニウムは濃縮ウランに比べれば製造が容易で、当時ソ連も開発していた。米政府としてはソ連との冷戦に備えて、プルトニウム原爆が確実な兵器となるように、日本がポツダム宣言を受諾する前に長崎で実験をしたかったのだろう。
その結果が、映画後半の主題であるオッペンハイマーのソ連スパイ疑惑審判に繋がっている。オッペンハイマーは水爆開発には反対したうえ、妻は元共産党員であり、かりにオッペンハイマーが失脚してもプルトニウム原爆の実用化には見通しがついていた。水爆には起爆剤としてプルトニウム原爆が必要だが、プルトニウム型原爆に必要な爆縮装置を提案した同僚のエドワード・テラーは戦後水爆開発に積極的だったからで、水爆の父とよばれることになる。
(2)テラーの水爆提案時期が早すぎる
映画では、トリニティ実験前にカリフォルニア大学バークレー校でテラーが水爆構造案を提案したことになっているが、テラーの最初の提案は北朝鮮のキム・ジョンウンが手に持っていた砲弾型のプルトニウム原爆からの中性子をトリチウムとベリリウムで増殖して反射させることで不完全爆発を防ぐテラー型原爆のはずである。トリニティの実験すら行っていない時期にテラーが現在の水爆を提案したというのは盛りすぎだろう。
(3)CIAが出てこないのは解せない
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